FAZER LOGINそうだけど、違う意味でドキドキしちゃう。 シャンプーの良い匂いがするし。 幸せすぎて、顔の表情が緩み、口角が上がる。 迅くんをチラッと見ると、彼も会社にいる時とは違い、別人のような優しい顔をしている。 この時間が迅くんにとっても、気分転換になっていればいいな。…・――――…・―――「いやいやいや!!もう終わった!?」 私はいつ出てくるかわからない幽霊に怯え、迅くんにしがみついたままだった。「まだ終わってないけど。美月、ほとんど映画見てないじゃん」 私の様子にアハハっと笑っている。「見てないんじゃなくて、見れないの」 こんなの一人で見てたら、思い出して一人で眠れなさそう。「ていうか、そんなにくっつかれるとそろそろ俺も映画どころじゃなくなるから」 急に目線が鋭くなり、迅くんは私から離れ、パソコンの電源を落とした。「あっ。ごめん。私が怖いの見れないからっ!」「違う。美月に触れたくて、限界」 彼はそう言い、電気を消した後、私を押し倒した。「迅くん?」「イヤだって言っても、遅いから」 彼は自分の上衣を脱いだ。 あぁ、あの時と同じ表情だ。 薄っすら窓から漏れる光で顔が見える。 再会しても彼のことがわからずに、加賀宮さんって呼んでいた頃と。 悪戯に笑う彼に、身体を預けていた時と同じ――。「んんっ……」 息が出来ないくらいの強引なキス。「ふっ……。んんっ」 キスされながら、彼は私の敏感なところに指先を伸ばしていく。「美月の感じるところ、知っている」 彼は、私の感じるところを弄ぶ。「あっ、もっ!ダメッ!」 彼の背中に手を伸ばし、快感に耐える。「イッていいよ」 彼がショーツの中に指先を入れて、既に膨れている部分を優しく擦った。「あぁ!」 快感に耐えられず、私は絶頂を迎えてしまった。「美月。濡れすぎ」 彼は満足気に笑っている。「んっ……」 まだ小刻みに痙攣している身体に舌が絡まる濃厚なキスをされ、一回治まった衝動がまた彼を求めている。 そういえば、いつもイかされてばかりだ。 今思えば私が結婚してたから、彼なりに配慮してくれてたの?「迅くんも気持ち良くなってほしい」「えっ?」「迅くんも一緒に気持ち良くなってほしい」 一瞬動きが止まった彼だったが「わかった」 あれ?
「迅くん!そろそろ起きて」「んっ……。うん。あー。俺、何時間くらい寝てた?」 迅くんが部屋の中の時計を見る。「っ!マジッ!?十九時すぎてんじゃん。ごめん」 時間を知った瞬間、上半身をバッと勢いよく起こした。「ぐっすり気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしてた。休みなんだもん、たまにはゆっくりしても良いと思うよ」「美月と一緒に過ごせる時間なのに。なんか損した気分」 口をへの字に曲げ、ムスッとした表情を浮かべる迅くんはなんだか子どもみたいだ。 夕ご飯、喜んでくれるかな。 ちょっとだけ不安を感じながら、小さなテーブルに作った物を並べていく。「すごいな。マジ感動」 迅くんはすでに<いただきます>を準備しているかのように手を合わせている。「本当にこんなので良かった?」「あぁ。理想」 二人で「いただきます」 そう声を揃える。 彼が一口、お味噌汁を飲んだ。 口に合うかな? ドキドキしながら彼の顔色を伺う。 一旦、箸を置く彼。 えっ?どっちなんだろう?「ヤバい、美味い」 良かった。息を吐いてしまった。「これから毎日美月の料理が食べられるかと思うと、普通に嬉しい。あっ、言ってなかったけど、ハウスクリーニング終わったから、明日もう引っ越しだから」 もう?また急な話だ。「明日引っ越しって!聞いてないよ」「ごめん。忘れてた。でも、イヤなの?」 先ほどまでとは違う彼の鋭い眼光がイヤなんて言わせてはくれない。「イヤじゃないよ。心の準備ができてなかっただけ。いつまでもホテルってわけにはいかない。ごめん。感謝しなきゃいけないのに」「毎日、朝、美月が起こしてくれて、夕ご飯も作ってくれて、夜は隣に居てくれるなんて。夢のようだな」 はい?待て待て待て。 夕ご飯は作るって言ったけど、朝と夜のことは聞いていない。 それじゃあ、同棲しているようなものじゃない!?「ねっ!迅くん、そんなこと言ったっ……」「あー。美月のご飯、美味いなー」 全然聞く耳を持たない。 はぁ。ここで反抗しても、また言い包められるだけだよね。 迅くんと一緒に居たいって思ってしまった時から、こうなるって理解しておかなきゃいけなかったかも。 夕ご飯を食べ終え、それぞれ早めのシャワーを浴びることになった。「美月、先にシャワー良いよ」「ありがとう」
「あっ、迅くん」 なかなか彼が戻って来なくて、強引に店員さんに服を勧められている時に、彼が戻って来てくれた。 けど、なんか表情が一瞬険しかったような。 やっぱり仕事でなんかあったのかな?「ごめん。お待たせ」 私には普通に接してくれたけど。「仕事、何かあったの?」「大丈夫。亜蘭に指示出して対応してもらうようにしたから」 無理、してないかな。 ふとそんなことを考えてしまった時――。「美月。それ、可愛いじゃん。ロングスカート」「えっ、ああ。うん。ありがとう」「お似合いですよね、私もずっと勧めているんですが、彼氏さんが居ないと決められないみたいで……」 店員さんが話に割って入る。「じゃあ、それお願いします」「ええっ!ちょっと!」「いいじゃん。俺が気に入ったんだから。美月、次も着てみて?」 彼のペースに引き戻された私は、続けて試着することになった。 いろんな洋服を着れるのは楽しいけど、疲れちゃった。 そんな私の様子がわかってか「これで大丈夫です。お会計、お願いします。美月は着替えてて?」 私が着替えているうちに迅くんが会計を終えてしまった。「ね、迅くん!お会計っ!」「あー。腹減った。ご飯食べに行こ?」「へっ?」「美月、腕?」 腕を組め……ってことだよね。 大きなショッピングバッグを持っているのに、重くないかな。 彼の指示に従い、歩くしかなかった。「さっきのショップ、うちのサブスクサービスと提携しているところなんだけど。デザインは可愛いけど、店員の教育がダメだったな」 なんてシビアなことを言いながらも「腹減ったぁ。美月、何食べたい?」 なんてことを言う迅くんは、本当、社長の時とはかなりのギャップだ。 それが面白くて笑ってしまう。 食事は迅くんオススメのイタリアンレストランに行くことになった。 ランチタイムを少し過ぎた時間だったが、混んでいたため、席が空くのを待つことに。「ごめん。事前に何食べたいか聞いて、予約しとけば良かった」「ううん。待つこと、別に嫌じゃないよ。迅くんと一緒なら全然。こんな時間も楽しいと思う。ゆっくりメニュー決められるから」 二人で過ごす時間が幸せだから何とも思わないのに、彼は謝ってくれる。「あぁ。マジ、今すぐ抱きたい」「はぁ?」 や
「ごめんっ!」「いや……」 やっぱり、慣れない靴で来るんじゃなかったな。 せっかくのデートだし、自分なりのオシャレのつもりで普段より高いヒールのパンプスを購入し、履いて来た。「美月、俺に掴まっていいよ」「えっ」「どうせ慣れない靴、履いて来たんだろ?俺、その靴見たことない」「ええっ!?」 どうしてそんなことまでわかっちゃうんだろう。 迅くんのその観察力、すごい。「嫌なの?本当は手、繋ぎたいけど。腕を組んだ方が歩きやすいだろ」 手を繋ぐ……? 迅くんと手を繋いで歩くなんて恥ずかしい。 それ以上のことをすでに迅くんとはしているのに。「うん。ありがとう」 迅くんの腕を恐る恐る掴んだ。「もっとしっかり掴めよ」 彼にそう言われ、グッと腕に力を込めた。 深いところまでしっかり考えていなかったけど、結構迅くんの腕って男性っぽいって言うか。ガッチリしている。仕事が忙しいから、運動とかしてなさそうなのに。そう言えばこの間、孝介から逃げて家から飛び出した時も、お姫様抱っこしてくれたし、実は力持ちなのかな。 そんなことを考えていると――。「美月、次行こうか?」 彼に言われるがままついて行くと、アパレルショップが並ぶフロアーへ。「離婚のお祝いに美月に洋服を買いたい。好きなの何着でも選んで?」「離婚のお祝いって……」 彼にはたくさんお世話になっているし、私のせいでお金もかかってる。そんなこと、欲しいなんて言えるわけがない。「孝介にほとんどの洋服、ダメにされたんだろ?知ってるから」 また気を遣わせてしまっている。「洋服は、自分で買えるよ。大丈夫」「美月が選んでくれないんだったら、俺が勝手に選ぶ。ちゃんと試着はしてもらうから」 それじゃ、私の選択肢は<買ってもらう>しかないじゃない!? 返答に困っていると「行こう」 彼は強引に私の腕を引っ張り、とあるショップへ入って行こうとした。「ちょっと!待って!」 抵抗虚しく、私はその五分後にはフィッティングルームの中にいた。 選んでもらった洋服を着て、フィッティングルームのカーテンを開ける。「お客様、とてもお似合いです!スタイルが良いので、何でも似合っちゃいますね!」 この店員さん、まだ接客経験が浅いのかな。 褒め言葉が嘘っぽいし、誰にでも言ってそうな言葉でなん
あっという間に、迅くんとデート当日になった。 男性とデートって、何年ぶりだろう。 結婚する前に孝介と何回か食事に行ったことはあるけれど。 もうこんなこと二度とないと思っていた。 あぁ、こんなに緊張したっけ? 私が泊っているホテルの前に、迅くんが迎えに来てくれる予定だ。 ソワソワしてしまい、約束の時間より前には外に出て待っていた。 すると――。 一台の見覚えのある車が目の前に止まった。 あっ、迅くんだ。 扉を開け、彼が車から降りた。 いつもと雰囲気が違う。 アイドルとか、俳優さんとか、芸能人みたい。かっこ良い。 なんて思っていると「お待たせ!さ、どうぞ」 助手席に迅くんが案内してくれた。「あっ、はい」 あーもう、ドキドキする。顔、赤いかな。 「美月、今日可愛い」「えっ?」 予想もしていない言葉をかけられた。 さらに頬に熱が帯びる。「またそんな冗談っ……!」「冗談じゃないけど。俺はいつもそう思ってる。けど、なんか今日は特別」 なによ、それ。何て返事したらいいの。「迅くんの……。私服、初めて見たかも。いつもと雰囲気違って、カッコ良い」 ボソッと私が呟くと「はっ?いつもカッコ良いだろ?」 何の迷いもなくそう言い切る彼。 嘘ではないから反論できない。 迅くんのその自信を私にも分けてほしいよ。 これからどこに行くんだろう。<俺が考えるから>って言われて、彼に全部任せている。「ここの駐車場に駐めるから」 ここって、大型ショッピングモールの駐車場だ。 車から降り、彼の後ろをついて行く。「どこに行くの?」「プラネタリウム。一回来てみたかったんだ」 プラネタリウムか。行ったことない。 でも、なんだかデートっぽい。 いや、デートなんだろうけど。 迅くんは事前にチケットも購入してくれていたみたい。「ありがとう」「いえいえ。俺が来たかったっていうのもあるし」 施設の中に入り、シートを探す。「あっ。ここだ」 迅くんが案内してくれたところは――。「うぁっ!広い!これってプレミアムシートとかカップルシートってやつ!?」 私が一人だったら絶対に座らないようなシートだ。ソファになってる。「そう、そんなに驚くなよ。美月。座って?」 迅くんにクスっと笑われた。「うん」
…・――――…・―――「あ、お疲れ様です」 渡してあったカギで部屋の中に入ったんだな。 約束の時間より早く彼女は到着したらしく、すでに部屋の中に居た。 もう家政婦ではないはずなのに。 俺は美和との関係を切るため、マンションに呼び出していた。 九条社長が美和の会社を訴え、彼女は懲戒解雇になったと聞いた。 さすがにショックを受けているかと思ったけど、そんな様子はない。 美和は「今日のご飯は何が良いですか?」 そう言ってエプロンまで付け、支度をし始めた。「家政婦は解雇になったんじゃないんですか?」 俺が訊ねると「家政婦としてじゃなくて、加賀宮さんの彼女としてご飯を作りに来たんです」 そんな回答が返ってきた。「彼女とは?いつから僕の彼女になったんですか?」「えっ?」 目をまん丸くして驚いている。「僕はあなたを彼女にした覚えはありませんが?」「あの時、食事をした時に。これから仲良くしていきたいって言ってくれたじゃないですか?何か隠していることがあったら、事前に教えてほしいって。全てを受け容れるからって。だから私は孝介さんと不倫関係にあったことをあなたに伝えたのに……」「だからと言って、交際を申し込んだ覚えはありません。確かに僕はあなたの全てを受け容れました。不倫関係にあったことを責めたりはしなかったでしょ?ただあなたから話を聞きたかっただけです。個人的に家政婦としてあなたと契約するつもりはありません。解雇されたのであれば、もう二度とここへは来ないでください」 不倫が会社に漏れることなく、解雇されなかったにしても、美和にはもう価値がないし、捨てるつもりだったけど。 九条社長には、そこだけ感謝しなきゃだな。「そんな!冗談ですよね?今日で関係が終わりなんて、そんなの酷すぎるっ!!」 始まってもない関係だということに気がつかないのか?「ええ。終わりです。カギを返して出て行ってください」 後でオートロックの番号とかも変えとかないと、また来そうだ。「私、あなたのことが好きで!孝介さんとの関係もきちんと切りました。なのに、こんなにすぐに終わりだなんて!本当に酷い……」 彼女は泣いているように見えた。 本当に泣いているのかまでわからないし、







